傷跡に植毛はできるのか?

傷跡に植毛はできるのか?

人生の中で、ケガや手術、火傷などによって頭皮に傷跡が残ることは珍しくありません。
そのような傷跡の部分では毛根が破壊されてしまい、髪が自然に生えることはほとんどありません。

顔や頭部の傷跡は他人の視線が集中しやすく、自己イメージや対人関係にも大きな影響を与えます。
一般的には「傷跡の上に髪を生やすことはできない」と思われがちですが、近年の医療技術の進歩により、植毛によって再び髪を取り戻すことが可能になっています。

なぜ傷跡には髪が生えないのか?

皮膚に深い損傷が起こると、毛根組織が破壊され、代わりに「瘢痕組織(はんこんそしき)」と呼ばれる硬い皮膚が形成されます。
この瘢痕組織は、通常の皮膚と比べて血流が少なく柔軟性も低いため、髪の成長に必要な栄養や酸素が十分に届きません。
その結果、毛根が存在しない状態となり、自然な発毛は期待できなくなります。

傷跡に植毛は可能?

結論から言えば、瘢痕組織の植毛は可能です。

傷跡の皮膚は正常な頭皮よりも硬く、血流が乏しいため、通常の植毛と比べて定着率が低くなる傾向にありますが、近年では医療技術が大きく進歩し、傷跡に対する植毛手術でも非常に満足度の高い結果が得られるようになっています。
特に、血流の再構築を目的とした前処置(PRP療法や脂肪幹細胞注入など)と組み合わせることで、結果を大きく改善することが可能で、7090%までの生着率が得られるようになりました。

ただし、結果には個人差があり、傷の範囲・深さ・皮膚の柔軟性・血流状態によって効果が変わるため、現実的な期待値を持つことが大切です。

傷跡植毛の適応例

植毛が可能な傷跡の例としては、次のようなものがあります。

交通事故や転倒などによる外傷の跡

手術や頭部の縫合跡(脳外科手術後など)

熱傷(やけど)による瘢痕

皮膚病や放射線治療後の瘢痕

ただし、瘢痕の範囲が広い場合や、皮膚が極端に硬い場合には、複数回の施術が必要となることもあります。

傷跡への植毛方法

植毛手術に使用する技術は、瘢痕組織の状態や範囲によって選択されます。
頭皮の損傷が重度な場合は、FUT法(Follicular Unit Transplantation)が必要になることがあります。
この方法は、後頭部などのドナー部位から帯状に皮膚を採取し、髪のない部分へ移植する手法で、広範囲の瘢痕をカバーできる点が特徴です。

一方、瘢痕が中程度または軽度の場合には、より新しく負担の少ないFUE法(Follicular Unit Extraction)が選ばれることが一般的です。
FUE法は、毛根を一本ずつ採取して移植するため、傷跡が小さく回復も早いという利点があって、自然な生え際の再現や、眉・ひげなど繊細な部位への移植にも適しています。

手術後は、数日間の赤みや軽度の腫れが見られる場合がありますが、通常は12週間で落ち着きます。
移植毛は一時的に抜け落ちる「ショックロス」の時期を経た後、約34か月で新しい髪が生え始め、半年〜1年で安定した仕上がりとなります。

 

 まとめ

傷跡への植毛は、非常に繊細で高度な技術を要する手術です。
そのため、経験豊富な専門医が血流の状態を的確に判断し、丁寧に移植を行うことが成功の鍵となります。

事故や火傷、手術跡による脱毛でお悩みの場合は、まずは実績のある植毛専門医に相談してみましょう。
正確な診断と最適な治療法の提案を受けることで、もう一度「髪を取り戻す」という希望が現実になるかもしれません。